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株式会社アクト・コンサルティング

    これまで、ノウハウを業務革新や商品開発で活用する方法。ノウハウ創造の仕組み確立方法を見てきた。本書では、ノウハウ継承方法を紹介したい。
現在多くの企業で、団塊世代のリタイヤや、特定年次の社員数が少ない「人事のくびれ」問題、また、国内の強みの海外拠点移植などに対応するために、ノウハウ継承が試みられている。そこでは、若手を有能者につけて学ばせる制度確立や、有能者ノウハウの見える化などの努力がなされている。ただし、継承の基本はOJTである。そこで、OJTを個人任せにせず、組織的に強化できるかどうかで、ノウハウ継承の成果は大きく変わる。

ノウハウ継承の壁を打破する

ノウハウは、本連載第2回に示す方法で見える化し、業務プロセスやシステムに展開できる。ただし、これだけでノウハウの継承は難しい。ノウハウ継承には、以下の壁を突破する必要がある。

  • 1.達成水準の理解
  • 2.サブノウハウの修得
  • 3.信念化

システム販売会社で、有能営業マンのノウハウを若手へ継承する活動があった。この会社は、競争力のある製品を持っていた。そこで若手営業マンは、顧客の前で自社製品の良さを連呼し、顧客が提案を求めると、自社の技術部門にこれを伝えていた。このような営業スタイルを続けてきた結果、若手営業マンは、顧客からの質問に対応したり、買う気にさせるために説得するということを行わなくなっていた。この状況に危機感を持った経営者が、有能営業マンのノウハウの若手への継承を指示した。
有能営業マンの中には、例えば「顧客が自社製品を欲しいと思う『芽』を見つけて育てる」というノウハウを持っている者がいた。この営業マンは、顧客の話をじっくり聞き、自社製品に興味を持つキーワード−「芽」を見つける。そしてこの「芽」を、顧客と共に育てる。当然顧客の中には、今は買う気はないが潜在需要を持っている者。買うかどうか悩んでいる者がいる。このノウハウは、そのような顧客の需要を喚起し、買う気にさせるものだった。
この会社では、まずノウハウを、以下に示す標準営業プロセスにまとめ、若手に教育した。

図)顧客が自社製品を欲しいと思う『芽』を見つけて育てる

  1. 顧客訪問でキーワードを聞き逃さず、「自社製品を欲しいと思う芽」を見つける。
  2. ただし、その場で「芽」を育てる提案は難しい。そこで1回目の訪問の最後に、顧客に再訪問し提案することを受け入れさせる。
  3. 訪問後、「芽」をどのようにすればふくらませ、花開かせられるか、計画を立てる。
  4. そして、自社技術部門の協力を得て、具体的な提案方法を検討する。
  5. 検討が進む中で分からないことがあれば、躊躇せずメール等で顧客に確認する。
  6. 提案方法が完成したら、顧客を訪問し提案を開始する。

しかし、上記プロセスを教育しても、若手は満足のいく結果を出せなかった。「ノウハウ継承」の壁にぶつかったのだ。
最初の壁は、「達成水準が分からない」という壁である。若手は、顧客が「それは良い機能ですね」と言ったことを「芽」だと考えた。しかし同行した有能者から見れば、それは単なる社交辞令である。「芽を見極める達成水準」が分からないのだ。
2番目の壁は、「サブノウハウが修得できていない」ことだ。例えば、「芽」を見極めるために、どのようなキーワードに気をつけるべきか、視点や切り口が無ければ、折角顧客がキーワードを言っているのに、それが「芽」だと気が付かない。このような視点や切り口は、ノウハウ実現に必要なサブノウハウである。(「信念化の壁」は後述)

ノウハウOJTの方法を確立する

そこでこの会社では、ノウハウ・マネジメントの先進事例を調査し、ノウハウOJTの方法を確立。OJT指導者に、この方法を教育した。ここで確立した「ノウハウOJT方法」は、継承者が失敗した機会を最大限活用し、本来どのようにすべきか指導する方法である。

例えば、若手が顧客の社交辞令を真に受けて、「芽」だと勘違いした場合、「そんなのはただの社交辞令だ」では、若手は次回からどうしたらいいか分からない。失敗は、指導者と継承者のギャップが顕在化した瞬間である。そこでこの瞬間に、指導者は、自分が何故出来て継承者が何故出来ないか、ギャップの理由考え、これを埋める方法を指導する。
例えば、「自分は何故顧客の社交辞令と『芽』を峻別できるか」と自問自答する。すると、自分は顧客の耳障りのいい言葉を聴いた場合、何故顧客がそのように感じたか、必ず裏を取る質問をしていることに気が付く。そこで、「社交辞令に気をつけ、必ず裏を取れ」と教える。
「社交辞令に気をつけ、必ず裏を取れ」もノウハウである。しかし、これを事前に見える化することは難しい。有能者に、頭の中にあるノウハウを全て示せといっても無理である。継承者とのギャップによって、有能者は、今まで無意識に実践していたノウハウを自覚することができるのだ。つまりギャップを見つけて指導するのは、継承者が必要とするノウハウを抽出・共有するチャンスである。また、有能者によっても、自分のノウハウを自覚・整理する機会である。

「ノウハウOJT」は、以下の方法で、組織的に推進することが出来る。

  1. 有能者ノウハウの抽出と標準化(本書第2回参照)
  2. 継承者への標準化されたノウハウの教育
  3. 指導者への「ノウハウOJT方法」の教育
  4. 組織的なOJTの推進
  5. OJT指導によって生み出された、サブノウハウ、新たなノウハウの共有
  6. 定期的な、サブノウハウ、新たなノウハウの、「標準化」への反映
  7. 「信念化」までノウハウ活用を徹底

最後に、「信念化の壁」について述べる。上記1~6を実施すると、継承者は、やがて有能者と同等の成果を上げるようになる。しかしOJTが終わると、多くの継承者は、忙しい時、難しいテーマでは、折角得たノウハウを使わないことが多い。これは、得たノウハウの効果を心の底から理解し、いつでも必ず使おうという信念化ができていないからだ。そこで、得られたノウハウで、難問を解決する。顧客に褒められる。といった、感動を伴う経験をするまで、何らかの形でノウハウ活用を義務付けることが重要である。感動が、ノウハウを信念へと高める。

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